思い出の中

今もいつかは思い出の中。

24才最後の日の出来事

その日は24才最後の日だった。 25才を翌日に控えた私は、見事なまでにフリーだった。 彼氏どころか、気になる人すらいなかった。 たまたま地下鉄に乗っていたら、 何だかすごく雰囲気のいい人がいた。 彼は右手でつり革を握って立っていた。 かっこいいな、…

3人で並んで働いていたこと

「私たち、1年後はどこにいるんでしょうね。」 去年の3月だった。 会社の移転に伴い、次の仕事を探していたYさんと私。 とりあえず契約満了まで残ると言っていたWさん。 どこにいるんでしょうね、と言いながら、 どこか他人事のように笑っていた。 私たち3人…

サーチライトを眺めながら

「場違いー。」 ディズニーシーに着いた途端、Nさんはそう言って笑った。 私もそう思った。 Nさんも私も、ディズニーなんて柄じゃなかった。 1か月前。 会社の同僚の二次会で、Nさんは見事ディズニーシーペアチケットを当てた。 彼女のいないNさんは、彼女の…

シベリア鉄道の朝

目が覚めると、ベッドの下からゴーッという音が聞こえた。 体を起こし、窓の外を見る。 外国の朝。 濃紺の空に、くすんだえんじ色が滲んでいる。 枯れた草木も、その向こうに見える家々も、何てことないのにとても素敵だった。 変わり映えのない景色を、しば…

ウスペンスキー寺院の小さな丘で

転職する三週間前の五月だった。 退職前にまとまった休みは取れそうになく、勢いで予約したヘルシンキ行きの飛行機。 五日間という短い旅の最終日に、私はウスペンスキー寺院に来ていた。 寺院内の観光をさくっと終え、暇を持て余した私は寺院から一段下がっ…