シベリア鉄道の朝
目が覚めると、ベッドの下からゴーッという音が聞こえた。
体を起こし、窓の外を見る。
外国の朝。
濃紺の空に、くすんだえんじ色が滲んでいる。
枯れた草木も、その向こうに見える家々も、何てことないのにとても素敵だった。
変わり映えのない景色を、しばらくじっと眺めていた。
私のシベリア鉄道の旅はわずか一晩の旅だった。
ハバロフスクでは、寒さのあまり耳が遠くなった。
10月だというのに、気温はマイナス3℃。
きちんと下調べしていかなかった私は、その中をシャツ1枚で歩いた。
“ウラジオストクはシャツ1枚で充分なほどあたたかかったのに…”
ちょっと都市間を移動しただけでこの違いか、と思ったけれど、
よくよく考えてみればウラジオストク⇔ハバロフスク間は東京⇔北海道間くらいに値する。
ロシアという国が大きすぎて、何百キロという距離を北上するのにちょっと隣り町に行くくらいの感覚になってしまっていたのだ。
そう言えば、前日に泊まったウラジオストクのホテルではシャワーのお湯が出ず水で髪の毛を洗った。
何かの修行かと思うほど寒かったけれど、ハバロフスクの方がずっと寒くて忘れていた。
寒さに縁がある旅だったんだな、と思う。